「出自を知る権利」とは。ドナー提供で生まれる子どもの視点から
ドナー精子・卵子提供を検討するとき、いちばん先に向き合っておきたいテーマがあります。生まれてくる子どもが、自らのルーツを知ること——「出自を知る権利」です。この記事では、その意味と日本の現在地を、できるだけ正確に整理します。
「出自を知る権利」とは
ドナーの提供で生まれた子どもが、自分がどのように生まれたのか、遺伝上のルーツはだれなのかを知ることをいいます。大切なのは、これが親の権利ではなく「子どもの権利」だという点です。子どもは生まれ方を選べません。だからこそ、知りたいと思ったときに知ることができる道を、大人の側があらかじめ用意しておく——それがこの権利の考え方です。
日本の現在地:法律はまだない
日本では2020年に生殖補助医療特例法が成立し、ドナー提供で生まれた子の親子関係(出産した女性が母、夫が同意したドナー精子の子は夫が父)は明確になりました。しかし、出自を知る権利を保障する規定はこの法律には含まれませんでした。
その後、ドナー情報の保管や開示のしくみを定める「特定生殖補助医療に関する法律案」が2025年2月に国会へ提出されましたが、実質的な審議が行われないまま同年6月の閉会を迎えました。つまり2026年7月現在、日本には出自を知る権利を保障する法律はなく、法制化の議論が続いている段階です。
この権利が、国内AIDを変えた
出自を知る権利は、抽象的な理念ではありません。国内でAID(ドナー精子による人工授精)を長く担ってきた大学病院では、ドナー候補者に「将来、子どもから情報開示を求められる可能性がある」ことの説明を始めたところ、ドナーのなり手が大きく減り、2018年に新規患者の受け入れを停止しました。国内のAIDが縮小した背景には、この権利をめぐる変化があります。
検討する側は、どう向き合う?
いま検討できる向き合い方は、たとえば次のようなものです。
- ID開示(オープン)ドナーというしくみを知る — 子どもが一定の年齢に達したときにドナー情報へアクセスできるしくみを設けている精子バンクもあります。匿名か開示かは、ドナー選びの大切な軸のひとつです。
- 子どもへの告知を前提に考える — 国内で例外的に認められている卵子提供(JISART承認例)でも、子どもへの告知と出自を知る権利の承認が条件とされています。
- 記録を残す — どの国で、どのようなしくみで治療したか。将来子どもに説明できる材料を、意識して残しておくことができます。
ミライライフIVFは、出自を知る権利を尊重することを情報提供の前提としています。ドナー選びの段階から、このテーマも一緒に整理していきましょう。
提出された法案には、なにが書いてあった?
2025年の法案は、ドナーの情報を公的機関で長期(100年)保管し、生まれた子どもが成人したのちに一定の情報の開示を請求できるしくみを柱としていました。成立には至りませんでしたが、「保管と開示を国が担う」という方向性が示された意味は小さくありません。将来、制度がこの方向で整う可能性を前提に、いまの選択——開示型ドナー、記録、告知——を組み立てられるからです。
「いつ、どう伝える?」——告知のヒント
国際的には、物心がつく前から家族の物語のひとつとして自然に伝えていく「早期からの告知」が広く推奨されています。思春期以降に突然知らされるよりも、「最初から知っていた」ほうが、子どものアイデンティティの揺れが小さいと考えられているためです。絵本のようなかたちで伝え始めるご家族も増えています。完璧な台本は要りません。「あなたに会いたくて、たくさんの人の力を借りたんだよ」——その一文から始められます。
親の側のケアも、忘れずに
この権利に向き合うことは、親にとって「自分たちの選択を、将来の子どもの目で見直す」ことでもあり、想像以上に心を使います。迷いや不安はご相談のなかで一緒に整理できますし、必要に応じて専門的なカウンセリングにつなぐこともできます。ひとりで抱えないでください。
参考:法務省・国会提出法案資料・報道各社(2026年7月確認)。本記事は教育・情報提供を目的としたもので、法的助言ではありません。